「腕を後ろに回すと、肩が痛い……」そんなつらい痛みを抱えている方へ。
エプロンの紐を結ぶ、服の着替えといった、日常の何気ない動作で肩に痛みを感じる場合、多くの人が四十肩・五十肩を疑います。
しかし、実際には、肩の腱板損傷や断裂、鋭い痛みを伴うインピンジメント症候群といった危険を伴うケースもあります。
放置すると症状が悪化し、日常生活に大きな支障をきたす可能性もあるため、痛みの原因を正しく理解し、適切な対処を行うことが大切です。
この記事では、理学療法士の視点から、腕を後ろに回すと肩が痛む原因として考えられる病気、危険な症状のサイン、そして自宅でできる対処法まで詳しく解説します。
目次
腕を後ろに回すと肩が痛むのはなぜ?放置は危険なサインかも
腕を後ろに回す動きは「結帯動作」と呼ばれ、肩関節の「伸展」と「内旋」という複数の動きが組み合わさった複雑な動作です。
この動きには、肩関節だけでなく、肩甲骨や鎖骨、背骨、そしてそれらを支える多くの筋肉や筋膜が連動します。
しかし、加齢や不良姿勢によって特定の筋肉が硬くなったり、筋膜が癒着したりすると、このスムーズな連動が失われることがあります。
その結果、動かそうとした際に組織が無理に引き伸ばされたり、骨同士が衝突したりして痛みが出ることがあります。
痛みを放置すると、関節が固まって動かせる範囲が狭くなる「拘縮」や「凍結肩」に進行し、改善に時間がかかるため、なるべく早期の対応が必要です。
腕を後ろに回すと肩が痛いときの【4つの原因】
腕を後ろに回したときに肩が痛む場合、主に4つの原因が考えられます。
それぞれ特徴的な症状があり、対処法も異なります。一つが原因であることもあれば、複数が関連し合って痛みを発しているケースも少なくありません。
ご自身の症状と照らし合わせながら、どの原因に当てはまる可能性が高いかを確認してみましょう。
(※ただし、ここでの解説はあくまで一般的な情報であり、正確な診断は医療機関で行う必要があります。)
原因①:四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)による関節の炎症
四十肩・五十肩は、医学的には「肩関節周囲炎」と呼ばれ、40代から50代に多く発症します。
明らかな原因がなく、肩関節の周りにある関節包や腱板といった組織に炎症が起こり、痛みや可動域の制限を引き起こすのが特徴です。
腕を後ろに回す動作だけでなく、髪をとかす、服を着替えるといったあらゆる方向への動きが制限されます。
症状は「急性期」「慢性期」「回復期」の3つの段階で進行します。
特に急性期には、夜間にズキズキと眠れないほどの強い痛み(夜間痛)を伴うことが多く、安静にしていても痛みが続く場合があります。
※当院では、肩関節周囲炎の施術も得意としています。すでに長年痛みでお悩みの方は、ぜひ気軽にご相談ください。
原因②:肩の使いすぎによる腱板損傷・断裂
腱板とは、肩関節を安定させるために重要な役割を担う4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の総称です。
転倒して手をついたり、スポーツで肩を酷使したり、あるいは加齢によって腱がもろくなることで、この腱板が傷ついたり(損傷)、切れたり(断裂)することがあります。
四十肩・五十肩と異なり、腕を上げることはできても、特定の角度で強い痛みや引っかかりを感じるのが特徴です(ペインフルアークサイン)。
腕を下ろすときに力が入らず、腕がガクンと落ちてしまうこともあります。断裂が広範囲に及ぶと、自力で腕を上げられなくなる場合もあります。
※バドミントンやテニスなどのスポーツで肩が痛くなる原因については「バドミントンやテニスで肩が痛くなる原因と対処法」で詳しく紹介しています。
原因③:肩関節の骨の衝突で起こるインピンジメント症候群
インピンジメントとは「衝突」を意味し、腕を上げる動作の際に、肩甲骨の一部である「肩峰」と腕の骨である「上腕骨」が衝突し、その間にある腱板や滑液包が挟み込まれて炎症を起こし、痛みを生じる状態です。
野球の投球や水泳のクロールなど、腕を繰り返し頭より高く上げる動作を行うアスリートに多く見られますが、猫背などの不良姿勢によって肩峰と上腕骨の隙間が狭くなっている場合、日常生活の些細な動きでも発症することがあります。
腕を上げる途中の特定の角度で「ズキッ」とした痛みや引っかかりを感じるのが特徴です。
原因④:猫背やスマホの長時間利用による姿勢の乱れ
長時間のデスクワークやスマートフォンの利用による猫背、巻き肩といった姿勢の乱れは、肩の痛みの大きな原因となります。
背中が丸まり、肩が内側に入ると、肩甲骨が本来あるべき位置から外側にずれてしまいます。
この状態で腕を動かそうとすると、肩関節の正常な動きが妨げられ、周囲の筋肉や筋膜に過剰な負担がかかります。
特に、肩甲骨の動きが悪くなると、腕を後ろに回す際に肩関節だけで無理に動かそうとするため、インピンジメント症候群を引き起こしたり、筋肉や腱を傷つけたりするリスクが高まります。
このタイプの痛みは、肩だけでなく首や背中のこりを伴うことも多いです。
【簡単セルフチェック】あなたの肩の痛みの危険度を調べよう
ご自身の肩の状態がどの程度危険なものなのか、いくつかの項目で確認してみましょう。
これから紹介する3つのチェック項目は、あくまで受診の目安を判断するためのものであり、自己診断を確定させるものではありません。
一つでも当てはまる項目があり、強い不安を感じる場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
症状を客観的に把握し、適切な次の行動につなげるための参考にしてください。
チェック項目①:痛みの種類(ズキッとする・ジンジンする等)
痛みの性質は、肩の内部で何が起きているかを知る手がかりになります。
腕を動かした瞬間にズキッ電気が走るような鋭い痛みがある場合、炎症が強いか、腱などが骨に挟まっているインピンジメントの可能性があります。
一方で、ジンジンジーンとする鈍い痛みや、肩全体が重だるい痛みは、筋肉の緊張や血行不良、慢性的な炎症が考えられます。
もし腕や指先にしびれを伴う痛みがある場合は、首の骨頸椎の問題で神経が圧迫されている可能性も否定できないため、注意が必要です。
チェック項目②:腕が上がる範囲(可動域)
痛みのない方の腕と比べて、どのくらい動きに差があるかを確認しましょう。
まず、痛い方の腕を後ろに回し、親指が背中のどの位置まで届くか(結帯動作)をチェックします。
お尻、腰、ウエスト、肩甲骨の下など、具体的な位置を覚えておきます。
次に、髪をとかすように腕を頭の後ろに回せるか(結髪動作)を確認します。
最後に、正面と真横から、それぞれ痛みなく腕をどこまで上げられるかをチェックします。
特定の角度で痛みが強くなったり、全く上がらなかったりする場合は、何らかの異常が起きているサインです。
チェック項目③:夜寝ているときに痛みで目が覚めるか
夜間に痛みで目が覚める「夜間痛」があるかどうかは、炎症の強さを測る重要な指標です。
特に、何もしていなくてもズキズキと痛む、寝返りを打つたびに激痛で目が覚める、といった症状がある場合、四十肩・五十肩の急性期や石灰沈着性腱板炎など、強い炎症を伴う疾患の可能性が考えられます。
夜間痛があると睡眠の質が低下し、体の回復力が落ちて症状が長引く原因にもなります。
我慢できないほどの夜間痛が続く場合は、早急に医療機関を受診すべきサインと捉えましょう。
すぐに整形外科へ!病院を受診すべき症状の目安
これから挙げる症状に一つでも当てはまる場合は、セルフケアで様子を見るのではなく、速やかに整形外科を受診してください。
自己判断で放置したり、不適切な対処をしたりすると、症状が悪化して治療が困難になる可能性があります。
専門医による正確な診断と適切な治療を受けることが、早期回復への第一歩です。
安静にしていても激しい痛みを感じる
腕を動かしていない、じっとしている状態でも強い痛みを感じる場合は、肩関節の内部で強い炎症が起きている可能性が高いです。
例えば、四十肩・五十肩の急性期や、腱板にカルシウムが沈着して激しい炎症を起こす石灰沈着性腱板炎、あるいは細菌感染などが考えられます。
このような強い痛みは、我慢しても改善することは少なく、むしろ悪化するリスクがあります。特に夜間に痛みが強くなる場合は、早急な受診が必要です。
日常生活に支障が出ている
- 着替えが一人でできない
- 髪を洗えない
- エプロンの紐が結べない
- 仕事で腕が上がらず困っている
など、肩の痛みが原因で日常生活の基本的な動作に支障が出ている場合は、治療が必要な状態です。
生活の質(QOL)が著しく低下しているサインであり、放置することで関節が硬くなり、さらに動きが悪くなる悪循環に陥る可能性があります。
専門的なリハビリテーションや治療によって改善が見込めるため、我慢せずに専門医に相談してください。
怪我をしてから急に肩が痛み出した
転んで手をついた、重いものを持ち上げた、スポーツ中に肩をひねったなど、はっきりとした怪我のきっかけがあってから急に肩が痛くなった場合は、骨折、脱臼、腱板断裂といった外傷性の損傷が疑われます。
これらの状態は緊急性が高く、レントゲンやMRIなどの精密検査が必要です。
特に「ゴリッ」「ブチッ」といった異音を感じた場合や、腕が全く上がらなくなった場合は、すぐに整形外科を受診しましょう。
※ 肩回しでゴリゴリ鳴る原因については「肩回しでゴリゴリ鳴る原因と対処法」で詳しく紹介しています。
放置すると後遺症が残る可能性もあります。
肩まわりに熱感や腫れがある
痛む方の肩が、もう片方の肩と比べて明らかに熱を持っている、あるいは赤く腫れている場合も、すぐに受診すべきサインです。
熱感や腫れは、強い炎症が起きていることを示しています。
石灰沈着性腱板炎や、頻度は低いですが化膿性関節炎などの感染症の可能性も考えられます。
感染症の場合は緊急の治療が必要になるため、「ただの肩こりだろう」と自己判断せず、必ず医師の診察を受けてください。
自宅でできる!腕を後ろに回したときの痛みを和らげる対処法
病院に行くほどではないけれど、つらい肩の痛みを少しでも和らげたいという場合、自宅でできる対処法がいくつかあります。
ただし、痛みの時期によって適切な対処法は異なります。
特に、痛みが強い時期に無理なストレッチなどを行うと、かえって症状を悪化させてしまう危険性があります。
これから紹介する方法を参考に、ご自身の症状の段階に合わせて、慎重にセルフケアを行ってください。
痛みが強い急性期は、安静が第一
- ズキズキと脈打つような痛みがある
- じっとしていても痛い
- 肩に熱感がある
といった「急性期」の症状がある場合は、無理に動かさず安静にすることが最も重要です。
この時期は肩関節で炎症が強く起きているため、動かすことで炎症を助長してしまいます。
仕事や家事などでどうしても腕を動かす必要がある場合は、なるべく両手での動作に切り替え、痛みのある肩の負担を減らすのも有効です。
痛みを引き起こす動作は極力避け、炎症が治まるのを待ちましょう。
痛みが和らいできたらストレッチで可動域を広げる
激しい痛みが落ち着き、動かしたときにだけ痛む「慢性期」に入ったら、少しずつストレッチを開始して、硬くなった関節の可動域を広げていきましょう。
痛みを感じない、あるいは「気持ち良い」と感じる範囲でゆっくり行うのがポイントです。
無理は禁物です。
以下に代表的なストレッチを紹介します。
- 壁の横に立ち、肘を90度に曲げて手のひらを壁につけます。
- そこから体をゆっくりと壁から離れる方向にひねり、肩の前側を伸ばします。
- 次に壁に向き合い、同じく肘を90度に曲げて、今度は手の甲を壁につけ、体を壁に近づけるようにひねり、肩の後ろ側を伸ばします。
- この時、肩甲骨の動きを意識することが大切です。
- 背中の後ろでタオルを縦に持ち、両端を持ちます。
- 痛い方の手でタオルの下を持ち、痛くない方の手でタオルの上を持ちます。
- 痛くない方の手でタオルをゆっくりと上に引き上げ、痛い方の腕が無理のない範囲で引き上げられるように補助します。
肩を温めて血行を促進し筋肉の緊張をほぐす
痛みが慢性化している時期には、肩周りを温めて血行を促進することも有効です。
筋肉の緊張がほぐれ、痛みが和らぎます。
38~40℃程度のぬるめのお湯にゆっくりと浸かる全身浴や、蒸しタオル、ホットパックなどを肩に当てるのがおすすめです。
温めることで関節や筋肉が動きやすくなるため、ストレッチ前に行うとより効果的です。
ただし、急性期で熱感や腫れがあるときに温めると、炎症が悪化してしまうため注意してください。
その場合は温めるのではなく、氷のうなどで15分程度冷やすようにしましょう。
夜間痛を軽減するため【寝る姿勢】の工夫
夜間痛で睡眠が妨げられる場合は、寝る姿勢を工夫することで痛みを軽減できる場合があります。
まず、痛い方の肩を下にして寝るのは避けましょう。圧迫されて血行が悪くなり、痛みが増す原因になります。
痛い方を上にした横向き寝がおすすめです。その際、腕の重みで肩が引っ張られないように、抱き枕やたたんだバスタオルなどを腕の下に挟み、肩が安定する楽なポジションを探します。
仰向けで寝る場合は、痛い方の腕の下にクッションや座布団を敷いて少し高さを出してあげると、肩への負担が減り、痛みが和らぐことがあります。
湿布や市販の痛み止めの、正しい使い方
つらい痛みを一時的に抑えるために、湿布や市販の鎮痛薬を使用することも選択肢の一つです。
湿布には冷感タイプと温感タイプがありますが、主な効果はどちらも「消炎鎮痛成分」によるものです。
急性期で熱感がある場合は冷湿布、慢性期で筋肉のこわばりが強い場合は温湿布を使うと、感覚的に心地よく感じられるでしょう。
ただし、これらはあくまで痛みを一時的に和らげる対症療法であり、痛みの根本原因を治すものではありません。
長期間使用しても症状が改善しない場合や、痛みが悪化する場合は、必ず医療機関を受診してください。
腕を後ろに回すと肩が痛い【よくある質問】
ここでは、腕を後ろに回すと肩が痛いという症状に関して、患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
ご自身の疑問や不安を解消するための参考にしてください。
20代や30代でも腕を後ろに回すと肩が痛くなるのはなぜですか?
主に姿勢の乱れや肩の使いすぎが原因と考えられます。
長時間のデスクワークやスマホ操作による猫背、スポーツでの過度な負担が肩関節や周囲の筋膜に影響し、20代や30代でも痛みが生じることがあります。
四十肩・五十肩とはメカニズムが異なるため、若いからといって安心はできません。
腕の付け根が痛い原因については「腕の付け根が痛い原因と対処法」で詳しく紹介しています。
この肩の痛みは、放置しておけば自然に治りますか?
軽度の筋肉疲労は自然に回復することもありますが、四十肩・五十肩や腱板損傷は放置すると状態が悪化する可能性があります。
痛みが続く場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な診断を受けることが重要です。
腱板損傷を放置すると、断裂範囲が拡大したり、腱板断裂性肩関節症に進行するリスクがあると考えられています。
また、凍結肩(拘縮肩)は、関節の動きが著しく制限され、回復に長期間を要する場合がある病態です。
肩が痛いときに無理に動かしたり、マッサージしたりしても良いですか?
炎症が強い急性期に無理に動かすことや、強いマッサージは症状を悪化させるため避けるべきです。
痛みが落ち着いた慢性期に、心地よい範囲で行うストレッチは有効ですが、力任せにもみほぐすのは危険です。
専門家の指導のもとで、適切なケアを行うことが望ましいです。
腕をうしろに回すと肩が痛い【まとめ】
腕を後ろに回したときの肩の痛みは、四十肩・五十肩だけでなく、腱板損傷やインピンジメント症候群、姿勢の乱れなど様々な原因によって引き起こされます。
痛みの種類や腕の動く範囲などをセルフチェックし、安静にしていても痛む、日常生活に支障があるといったサインが見られる場合は、速やかに整形外科を受診してください。
痛みが慢性化している場合は、安静にしすぎず、温めたり、痛みを感じない範囲でストレッチを行ったりすることも有効です。
しかし、痛みの根本的な原因が姿勢の歪みや筋膜のアンバランスにあることも多く、セルフケアだけでは改善が難しいケースも少なくありません。
痛みが長引く場合は、身体全体のつながりを評価できる専門家に相談することも一つの選択肢です。
すでに病院での治療が終わったのに痛みが残っている
いろんな整体や接骨院に通ってみたけど痛みが治らない
そういった場合は、全国に100箇所以上の整体院を展開をしている当院で、ぜひ一度あなたの痛みをご相談ください。
どこよりも早期に悩みが解消できるよう、理学療法士ならではの確かな知識と技術でサポートさせていただきます。
投稿者プロフィール

- 理学療法士/WEBメディア編集長
- 10年以上の医療・介護の現場経験を経て独立。著書に6刷を達成した『高齢者のからだ図鑑』など(Gakken出版)。現在は、東京都の高齢福祉事業にも従事。さまざまな現場経験をもとに、執筆・WEB発信・大学での講師業など分野問わず活動中。


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